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仙台高等裁判所 昭和31年(ラ)23号 決定

抗告人(申立人) 増田六平

相手方(相手方) 浄法寺町議会

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙記載のとおりである。

しかし除名処分が違法であるかどうかの最終的判断は素より本案事件である盛岡地方裁判所昭和三一年(行)第一五号事件の決するところであるから、所論一、二の事情があつても、除名議決の効力を停止しなければならないわけはない。そして相手方の抗告人に対する除名処分が原審の認定と異り、にわかに違法でないと断じ得ないとしても、右除名処分の執行に因つて生ずべき損害が償うことのできないものであるとか、損害を避けるためその執行を停止し抗告人をして浄法寺町議会の議員たる地位を仮に回復せしめなければならないという緊急の必要がある事実は抗告人の疎明によつては認め難いから論旨は採用し難い。

よつて抗告人の本件申立を理由がないものとして却下した原決定は相当に帰するから、行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第四一四条第三八四条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤規矩三 檀崎喜作 沼尻芳孝)

抗告の理由

一、相手方議会に於ては関係地主から道路敷地を無償提供の承諾を得て工事を施行することに方針を決定して居たとしても土地所有者が之を承諾しなければ工事を進行する事が出来ないのである。

地主菅礼次郎外五名は道路敷地を無償提供を承諾しないので已むなく代償(敷地及土量に対する代償)を工事請負者が提供したのである。

是れは規律に反する行為とはならない。町議会が関係地主に道路敷地を無償提供せしめる方針を決議し之を強行するが如きは無効の決議と言わなければならない。

二、浄法寺町議会が議員に対し懲罰を課し得るは地方自治法及議会規則によるべきものであるから議会規則第五十五条第二項の適用を免れて懲罰を課し得ない。

又議員協議会は議会議員の慣行に過ぎないもので、特別委員会とは異るものであるから特別委員会を経ない本件議決は違法である。

三、抗告人は昭和卅年四月三十日の地方選挙で選出せられた同町議会議員であるが同議会の除名決議によつて議員たるの資格を失つた。抗告人は之により本訴確定(目下盛岡地方裁判所昭和卅一年(行)第十五号事件として係続中)迄町政に参与出来ないとすれば、此の事自体により償うことのできない損害を蒙るおそれがあり、此の損害を避けるため緊急の必要がある。

原審決定の主文および理由

主文

申立人の本件申立を棄却する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人代理人は「被申立人が昭和三十年十月十日の臨時町議会においてなした、申立人を浄法寺町議会の議員から除名する旨の議決は、申立人被申立人間の当裁判所昭和三十一年(行)第一五号町議会議員除名議決の取消事件の判決確定まで、その効力を停止するとの裁判を求め、その申立の理由として、

一、申立人は被申立人議会の議員であつたところ被申立人は昭和三十年十月十日臨時町議会でつぎの理由で申立人を浄法寺町議会の議員から除名する旨を議決し、同月十五日その旨申立人に通知した。

前記除名の議決の理由はつぎのとおりである。

浄法寺町および鳥海村間の連絡道路である二戸中央線の道路敷地については、関係地主から無償提供することの承諾を得て、町において工事施行の方針をとつて来たところ、昭和三十年四月二十六、七日頃道路敷地の関係地主である菅礼次郎外五名に対し、申立人が議員の地位を利用して金十万円を損害賠償の意味で交付した秘密的取引行為は地方自治法違反と認められるものであり、かつ議会運営上に重大な支障を生じさせた。よつて地方自治法および浄法寺町議会会議規則により除名する。

二、しかしながら右除名の議決はつぎの理由により違法である。

(1) 申立人は秘密的に町費をもつて金十万円を菅礼次郎外五名に交付したことがない。右菅外五名がその所有地を道路敷地として潰すことを承諾しないのと、盛土用土量不足のため工事が進行しないので、工事請負人城前工業株式会社代表者城前栄太郎から金十万円を潰地に対する損害補填と右菅らからの盛土用土量獲得の謝礼として交付することを頼まれて同人らにこれを交付したにすぎないのである。議員としての行動ではなく、議会の運営を阻害するようなことではない。なんら除名の理由がない。

(2) 被申立人議会の会議規則第五十五条の第二項および第五十六条において、懲罰要求は懲罰事実発生の日から三日以内に文書をもつて議会に提出すべく、また懲罰要求があつたときは、議長は特別委員会に付託して審査させた上、はじめて議会の議決をもつて懲罰を科することができる旨規定している。ところが昭和三十年十月十日藤本兼次郎外十二名から提出された懲罰処分要求書によれば、懲罰事実が同年四月二十六、七日頃に発生したというのであり、その間五ケ月も経過しているのみでなく、右要求書を提出された被申立人議会の議長が特別委員会に付託して審査する手続をとらないで除名の議決をしたのである。手続上にもかしがある。

三、申立人は以上の理由で被申立人を被告として当裁判所に対し前記除名議決取消の訴訟を提起し、目下当裁判所昭和三十一年(行)第一五号町議会議員除名議決取消事件として係属中であるが、浄法寺町議会は毎年三月、五月、八月、十二月の四回に定例町議会、また臨時必要の都度臨時町議会を招集開会する定めであり、昭和三十一年四月下旬開会予定の第十回臨時町議会には中央線工事促進の件など町政の重要案件が議決されることになつているなど、益々多端な町議会の管掌事項について、申立人は議員として活動し得べき地位を有するのに、前記除名議決の結果不法にこれを剥奪され、しかも限りある任期なのに右事件の判決の確定までこのような状態におかれることは、正に償うことのできない損害を被つているのであり、これが回復の緊急の必要があるものといわなければならない。

以上の理由により前記除名議決の効力の停止を命ずる裁判を求めるというにある。

よつて考えるに、本件記録中の甲第一号証の一、二(浄法寺町臨時議会会議録謄本)第二号証(懲罰処分要求書謄本)第三号証(懲罰処分通知書)によれば申立人主張一の事実の疏明がある。

それで申立人主張二の(1)の事実について考えるに、甲第四号証(城前工業株式会社代表者城前栄太郎の証明書)によれば、被申立人が糺弾する金十万円は、申立人が議場外において城前工業株式会社代表者城前栄太郎から関係地主の菅らに対し金十万円以内で解決することを依頼されて渡されたものであることが窺われるが、前記甲第一号証の一、二第二、三号証によれば当時すでに浄法寺町すなわち被申立人議会においては、関係地主から無償提供の承諾を得て工事を施行することに方針を決定していたこともまた窺われるから、右申立人の行動自体議会の既定方針に反し、ことの性質上他の関係地主にも伝播するおそれが多分にあり、ひいては中央線事業の遂行を挫折させることがないとも保しがたいものといわなければならない。そうだとすれば被申立人の前示除名の議決はその規律維持のための権限内の処置といわなければならない。この点の申立人の主張は失当である。

つぎに申立人主張二、の(2)の事実について考えるに、本件記録編綴の浄法寺町議会会議規則写によればその第五十五条第二項には「懲罰処分の要求は懲罰事実の発生した日から三日以内に文書をもつて議会に提出しなければならない」と規定し、また第五十六条には「議長は前条の要求があつたときは特別委員会に付託して審査させ会議の議決をもつて左の懲罰を科することができる」と規定していることが窺われるが、右第五十五条第二項の趣旨は通常の議場内で発生した懲罰事実を理由とする場合に関するものであり、本件のように議場外で発生した事実を理由とする場合についてはその適用がないものと解され、また右第五十六条がかりに必ず特別委員会に付託審査させなければならないものとしても、甲第六号証(議員協議会協議録謄本)によれば申立人の除名処分について、議員協議会の形式で協議の結果申立人以外の全議員の一致で協議が成立していることが窺われるから、結局いわゆる特別委員会付託審査の実を了しているものといわなければならない。之の点の申立人の主張も失当である。

はたしてそうだとすれば本件除名の議決の違法であることを前提とする申立人の本件申立はその余の点に対する判断を待つまでもなく失当であるから、これを棄却すべきものとし申立費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十五条により主文のとおり決定する。(昭和三十一年四月十九日盛岡地方裁判所決定)

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